相続人に認知症の方がいるとき — 遺産分割の進め方と成年後見

父が亡くなり、相続人は母と子どもたち。
ところが母は認知症で、施設に入っている。
こうした相続のご相談は、年々増えています。
遺産の分け方を決める話し合い(遺産分割協議)は、相続人全員がそろって合意しなければ成立しません。
相続人の中に、判断能力が十分でない方がいると、そのままでは話し合いを進められないことがあります。
この記事でわかること
- 認知症の相続人がいると、遺産分割ができないことがある理由
- 成年後見の申立ての流れと費用、後見人がついたあとのこと
- 後見を使わずに済む方法と、2026年に成立した法改正のポイント
認知症の相続人がいると、なぜ話し合いが進められないのか
遺産分割協議は、相続人どうしの契約のようなものです。
自分が何を相続し、何をあきらめるのかを理解したうえで合意する必要があります。
認知症で判断能力が十分でない方が署名・押印しても、その合意は無効になるおそれがあります。
また、ほかの家族が本人の代わりに署名することはできません。
善意のつもりでも、あとで協議そのものが無効になったり、書類の偽造として問題になったりします。
ただし、認知症と診断されていれば必ず話し合いができない、というわけではありません。
症状が軽く、内容を理解して自分の意思を示せるのであれば、本人が話し合いに加わることができます。
判断がつかないときは、主治医に相談し、診断書で判断能力の程度を確認しておくと安心です。
相続人の範囲や順位の基本は、「相続人は誰?範囲と順位、法定相続分をわかりやすく解説」で解説しています。
成年後見人を選んでもらう方法
本人に判断能力がないときは、家庭裁判所で成年後見人を選んでもらいます。
成年後見人が、本人の代わりに遺産分割の話し合いに加わります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 申し立てる人 | 本人、配偶者、4親等内の親族など |
| 申立先 | 本人の住所地の家庭裁判所 |
| 費用 | 収入印紙800円(申立手数料)、収入印紙2,600円(登記手数料)、郵便切手(数千円分) |
| 鑑定費用 | 医師による鑑定が行われる場合は10万〜20万円程度 |
| 主な必要書類 | 申立書、本人の戸籍謄本・住民票、診断書、本人情報シート、登記されていないことの証明書、財産や収支の資料 |
| かかる期間の目安 | 申立てから選任まで1〜3か月ほど |
本人の判断能力の程度によって、「後見」「保佐」「補助」の3つの種類があります。
どれにあたるかは、診断書などをもとに家庭裁判所が判断します。
申立てには、財産目録(財産の一覧)も必要です。
作り方は「財産目録の作り方」で解説しています。
後見人に誰が選ばれるか
申立てのときに、子どもなどの親族を候補者にすることができます。
ただし、最終的に誰を選ぶかは家庭裁判所が決めます。
財産が多い場合や、親族の間で意見が分かれている場合などは、弁護士や司法書士などの専門家が選ばれることがあります。
また、子どもが後見人になっても、その子が同じ相続の相続人なら、母と子で取り分を分け合う立場になります。
この場合は利益相反(利益がぶつかる関係)になるため、遺産分割のときだけ、別に特別代理人を選ぶ必要があります。
考え方は、未成年の子が相続人になる場合と同じです。
くわしくは「相続人に未成年の子がいるとき」をご覧ください。
後見人がつくと、どうなるか
成年後見を使う前に、知っておきたいことが3つあります。
① 本人の法定相続分を確保するのが基本
後見人の役目は、本人の財産を守ることです。
そのため遺産分割では、本人が法定相続分(法律で決められた取り分)を受け取る内容にするのが基本です。
「母は施設にいるので、自宅も預金も長男がまとめて相続する」といった分け方は、認められにくくなります。
② 遺産分割が終わっても、後見は続く
今の制度では、成年後見はいったん始まると、原則として本人が亡くなるまで続きます。
遺産分割のためだけに使い、終わったらやめる、ということはできません。
③ 費用がかかり続けることがある
専門家が後見人になった場合、本人の財産から報酬を支払います。
目安は月2万〜6万円程度で、管理する財産の額によって変わります。
親族が後見人になる場合でも、家庭裁判所への定期的な報告が必要です。
また、申立てをしたあとは、家庭裁判所の許可がなければ取り下げることができません。
候補者が選ばれなかったからといって、やめることはできないので注意してください。
後見を使わずに済む方法はあるか
次のような場合は、成年後見を使わずに手続きを進められることがあります。
- 遺言書がある: 遺言で誰が何を相続するか決められていれば、話し合いをしなくて済みます
- 法定相続分どおりにする: 不動産を法定相続分どおりの共有で名義変更する場合は、話し合いはいりません。この登記は、相続人の1人から申請できます
- 預貯金の一部を引き出す: 遺産分割の前でも、1つの金融機関につき150万円までは、相続人が単独で払い戻しを受けられる制度があります
ただし、法定相続分どおりの共有にした不動産は、あとで売るときに共有者全員の同意が必要です。
そのときに母の判断能力がなければ、結局、成年後見が必要になります。
相続登記には、相続を知った日から3年以内という期限もあります。
話し合いがまとまらないときは、相続人が1人でできる「相続人申告登記」で、ひとまず義務を果たす方法もあります。
なお、相続が始まってから10年を過ぎると、生前の贈与や介護の貢献などを取り分に反映させる主張ができなくなります。
後見を避けたいからといって、話し合いを何年も先延ばしにするのはおすすめできません。
期限のことは「相続手続きの期限一覧」に、預貯金の払い戻しは「預貯金の相続手続き」にまとめています。
2026年6月に成立した法改正 — 「終われる後見」へ
成年後見制度は、大きく変わることが決まっています。
2026年6月17日に民法などの改正法が成立し、6月24日に公布されました。
主な変更点は次のとおりです。
- 「後見」「保佐」「補助」の3つの種類が、「補助」に一本化される
- 遺産分割など、必要な事柄に限って支援を受けられるようになる
- 必要がなくなったと家庭裁判所が認めれば、利用を終えられるようになる
成年後見の部分は、公布から2年6か月以内に始まります(遅くとも2028年12月ごろ)。
始まるまでは、今の制度で手続きをすることになります。
改正後は、遺産分割のために使い、終わったらやめる、という使い方ができるようになる見込みです。
ただ、相続登記などの期限は待ってくれません。
改正を待つか、今の制度で進めるかは、相続の内容や期限を見ながら判断することになります。
現場からの一言
相続した実家を売りたいというご相談で、相続人のお母様が認知症だとわかることがあります。
後見人の選任には数か月かかるため、売り出しの時期が大きくずれることも珍しくありません。
親が元気なうちに遺言書を作っておけば、こうした事態の多くは避けられます。
次の相続に備えるという意味でも、残された親の遺言をあわせて考えておくことをおすすめします。
生前にできる備え
相続人が認知症になることへの備えは、元気なうちにしかできません。
- 遺言書を作る: 誰が何を相続するか決めておけば、遺産分割の話し合いが不要になります
- 家族信託を使う: 不動産の管理や売却を、信頼できる家族に任せておく方法です
- 任意後見契約を結ぶ: 将来の後見人を、自分で選んでおく方法です
遺言書については「遺言書作成サポート」、家族信託については「家族信託という選択肢」をご覧ください。
八潮市・草加市・越谷市の場合の窓口
成年後見の申立ては、本人の住所地の家庭裁判所に行います。
八潮市・草加市・越谷市・三郷市・春日部市にお住まいの方なら、さいたま家庭裁判所 越谷支部が窓口です。
本人が施設に入っていて住民票を移している場合は、施設の住所地で判断します。
成年後見制度の利用の相談は、各市の地域包括支援センターや社会福祉協議会でも受け付けています。
草加市の方は、草加市の窓口と不動産事情をまとめた「草加市の相続相談」のページもご覧ください。
春日部市の方は、春日部市の窓口と不動産事情をまとめた「春日部市の相続相談」のページもご覧ください。
まとめ:認知症の相続人がいるときは、急がず、でも早めに相談を
- 判断能力が十分でない相続人がいると、そのままでは遺産分割の話し合いができない
- 家族が代わりに署名することはできない。家庭裁判所で成年後見人を選んでもらう
- 後見人は本人の法定相続分を確保するのが基本。今の制度では、原則として本人が亡くなるまで続く
- 遺言書がある、法定相続分どおりにするなど、後見を使わずに済む場合もある
- 2026年6月の法改正で、必要なときだけ使える制度に変わる(遅くとも2028年12月ごろに開始)
成年後見を使うかどうかは、相続する財産の内容、不動産を売るかどうか、期限などによって変わります。
まずは相続人と財産を正確に確かめることが、判断の出発点になります。
南出行政書士事務所では、戸籍の収集による相続人の確定から、財産目録、遺産分割協議書(案)の作成までをまとめてお手伝いする「相続手続きサポート」をご用意しています。
成年後見の申立ては、提携する司法書士と連携して進めます。
宅地建物取引士として13年の実務経験もあり、相続した家を売るか、残すかのご相談にも、そのまま対応できます。
相続人に認知症の方がいて、何から始めればよいかわからない、という段階でも構いません。
初回相談は無料ですので、お気軽にお問い合わせください。
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